THE 対談。【ねつ野菜】経営。根津喜明(長野県伊那市)

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伊那市美篶(みすず)に面白い農家さんがいる。

僕が「雨ことばカフェ」で働き出して暫く経った頃、オーナーから聞いたのである。

ほどなくして市内で露地栽培によって作られた野菜を納入に来た御仁と初めて会話したときは、「なんて腰の低い人なんだろう」と思うくらい人当たりが良く、この人がどう面白いのかは知る由もなかったが、時間の経過と共に素性や人間を知り、今ではすっかり「変わった農家さん」のレッテルが僕の中で勝手に貼られてしまった。

伊那市「ねつ野菜」の根津喜明氏である。

今回は、そんな一風変わった氏と対談させていただき、個人で経営する農家のことについて赤裸々白書していただこうと思います。

せっかくなんで、場所は雨ことばカフェの個室で対談させていただきました。

ねつ野菜に聞いてみた

–じゃ、お願いいたします(´・ω・`)
答えられそうもない質問はオフレコでも大丈夫なんで言ってくださいね(笑)

ねつ野菜::分かりました、緊張しますね(笑)

–農家として起業して現在どのくらい経ちましたか?あと、なんで農家をやることにしたのか、経緯なんかを聞きたいのですが、、、。

起業って言われるとそこまで硬い感じじゃないんですが、、、。畑をやりだしたのは2011年からだったので、今年で6年目です。そんなに経つんだなあ、、、。
実は結論から言ってしまうと、なんで畑やりだしたのか理由が分からないんですよ、、、。

–えぇっ!?と、いいますと、、、???

小さい理由はたくさんあるんですよね、「外で仕事したら気持ちいいだろうな」とか「サラリーマンよりも自分で考えて働いたほうが楽しいだろうな」とか「土に触れる仕事なら心が安らぐだろうな」とか。ただ、それぞれの理由が小さすぎて、どれが根幹にあるのか未だに分からないんですよ。他の人から「なんで農家やりだしたの?」って聞かれることよくあるんですけど、そんな感じで答えに困るから、自分のブログのプロフィールに書いてある通り、昔の文集の夢を語る欄の【将来の夢は百姓】っていうのを使うんです。それさえもなんでそんなこと書いたのかも分からないんですが(笑)
実際バイトもやりながら生活し
てたりするのでフリーターとか言ってもいいかもしれません。起業だなんて大それた感じで始めたんじゃないんです、もっとヌルッと始めたので。

–ヌルッと、、ですか、、、。
もともと東京で普通に働いていたと伺ってますが、辞めるきっかけとかがあったんですか???

いや、無いっす(笑)。前の職場は障害者福祉の仕事だったんですが、福祉だけじゃなくていろんな業種の仕事を任せられたんです。それが結構楽しくて、なんだかんだで10年くらい勤めました。でも、なんとなく「辞めまーす」的な感じで辞めて地元の伊那市に帰ってきました。周りからはすごく反対されたりもしたんですが(笑)。確かに、前の仕事を辞める理由も畑をやりだした理由も、はっきりはしてませんが、「なんか理由がなければいけないのか?」っていう思いはありますね。

–なるほど。確かにそうですよね。理由がなくたって人間はもっと自由に考えてもいいかもしれません。もっとミニマムに考えて「やりたいことをやって生きていく」っていう考えでもいいはずですよね。ねつさんもそんな感じなんでしょうか??

何事も動機ありきじゃないといけないっていう考え方に僕は違和感を覚えちゃうんですよ。社会的にはそれが普通なのかもしれませんが、何かを始めるのってもっと安易でもいいと思う。子供の頃、砂場で怒られるまで没頭して遊んでた感覚と似てますね、没頭できることをより掘り下げて生きていきたいだけなんです。その動機を畑やりながら探してる感じが今ですね。

–そうなんですね。納得出来ました。
ちなみに、ねつ野菜の年商ってぶっちゃけどのくらいですか???

少なすぎて恥ずかしいのでオフレコでお願いします(笑)バイトも並行してやってますが、それよりは高いとだけ言っておきますね。それでもそんなに余裕は無いですけど。

–全然オッケーです(笑)
前職での経験の中で、今の仕事にフィードバックできてることとかはありますか???

前の職場では仕事柄常に100人単位の人の事を考えていたり、福祉ってやっぱ出入りの激しい業種なので、そういう強みは生かせてるところあると思いますね。対人に疲れなくなったし、常に広い視野で物事を考えることとか。

–ねつさんの人あたりの良さの根幹はそこかもしれないですね(´・ω・`)

野菜のことについて聞いてみた

–普段自分の野菜って食べてますか???

うーん。出来たもののをそのままちぎって食べたりはしますね、味見て美味しければそのまま出荷するし、ヤバそうなら出荷しません。家ではあんまり食べないですねー。

–ある意味贅沢ですね。ちなみに好きな食べ物ってなんですか???

柿ピーです。

–(笑)   ねつ野菜ではたまに珍しい野菜を作っていらっしゃいますが、それはニーズがあるからですか??自分の趣味ですか??

ニーズとかはあんまり考えないですね。でも、例えば誰かに「黒大根いいよね」って何の気なしに言われて、でもすぐには作らないんだけど時間が経ってからなんかのきっかけでふと思い出して作ることはありますね。珍しい野菜とか新しい品種とかはそういうきっかけで作る事が多いです。
あとは育て易さとかも考えるのと、発送の販売もやっていて、セット販売した時のバランスとかを考慮して作っています。ただ、一度作って販売した野菜の場合作り手の考えよりも受け手のリアルな声の方が正直大事なので、そういう面ではビジネスライクには作っているのかなあ。

–発送販売って、一番出してる地域はどこですか???あと、どのようなマーケットなのでしょうか???

大体東京が多いですかね、次いで神奈川や埼玉とか、関東圏です。個人のお客さんもいますが、大体飲食店が大半です。

–そうなんですね。そういう場合ねつ野菜はホームページとか無いですが、宣伝や発信はどうやってしてるのですか???

偶然知り合ったりとかが多いです(笑)。知り合いの知り合いがお店やってて紹介してもらったりとか。飛び込みで営業もしてましたけど、全然効果なかったですね。さらに言うと、集客のことは年々考えなくなってきています。(顧客は)増えないんですけど。でもそれも一応理由があって、消費者よりも一個人として相対したいという気持ちが強いんです。そっちのほうが野菜を作る上で精神的な理由にもなるし、どこで誰が食べるか分からない野菜を作る事が単純に面白くないな、と思っちゃって。食べてもらったり使ってもらう人に対して野菜を作るっていうくらいになって初めて「顧客が1増えた」みたいになってますね、だからやっぱり全然増えないです(笑)
たまに大口の注文とかもいただくんですが、結構な勢いで断ってます。
WEBサイトも作るつもりはこの先も無いですね。ブログみたいな流動的なものの方が個人的には面白いと思ってます。

–意図してそのスタイルなんですね。大事なのはお金とかよりも一種のヒューマニズムだということですか???

お金はぶっちゃけ大好きですけどね(笑)ヒューマニズムっていうほど大それた言い回しじゃないんですけど、人との繋がりが素晴らしいっていうのはそういうところなんだと思います。僕は寂しがり屋なので、消費者も生産者も「お互いさみしいんだからさ、野菜で繋がろうぜ」的な(笑)。
言い方がちょっと悪いかもしれないんですけど、寂しさをお互い埋め合わせられる関係が理想なんだと思ってます、人間。なかなかそういう関係にはなれないんですが。

–なるほど。そういう意味では、雨ことばカフェではその関係が出来てるかもしれません。僕もたまにねつさんの野菜を買って家に帰るんですが、それってただ「野菜が食べたい」っていう気持ちより「ねつさんが作ってる野菜を食べたい」って言ってますもん。ねつ野菜なら間違いない的な雰囲気が雨ことばカフェ内には存在しています(笑)

ありがたいです。ただ、それも最初にテーゼを持ってきてるわけではなく、そういう想いを持ちつつ野菜を作った結果だとしか言えないんですよね。大義を先に持つと眩むんです。それよりも「みんなさみしいんだからさ」みたいなものが根底に無いとダメなんです(笑)

農業について聞いてみた

–最近若年層に農業という働き方が浸透しつつあるみたいですが、実際農業を6年間やってみて他人に農業を勧められますか???

難しいなあ(笑) 言えることといえば、その人が農業に対して何を求めるかにもよると思うんですけど、多分最初に持ってる理想や想いはどんなに強固なものでも必ず一度粉々に打ち砕かれます(笑)その結果によって築かれるものが農業の良さだったりすると思います。それこそ、一度砕け散った理想や想いが肥料になって、初めて農業の良さみたいなものが花開くみたいな、、、。だから、手放しで農業を勧められるかと言われると複雑な気持ちです。

–さらりと名言出ましたね(笑) それくらい覚悟が必要なんですね、、、。 伊那で農業をやる意味やメリットとかはありますか???

それは結構自信持って言えますね。僕の主観ですけど、日本で一番野菜がうまいエリアだと思います。冗談抜きで。北海道とかにも勝ってると思います。

–おお、それはすごいですね。美味しさの秘密は何なんですかね???

寒暖差による糖分ですね。春夏秋冬もそうだし、昼夜でも10度以上の寒暖差がここまである地域って珍しいんです。野菜にとってその寒暖差こそが野菜の糖分の大事なブースターになるんです。伊那で野菜を作ろうと思った理由の一つにも、それがあったりします。
ただ、冬が長いので、年間の半分くらいしか露地での栽培はできないんですよ。勿論ビニールハウスでも野菜は作れるんですけど、それは即ち伊那で野菜を作るメリッ
トではなくなってしまうんです。なので、裸一貫で農業をやっていくには厳しい土地なのかもしれませんが、美味しい野菜を作るという観点で見れば補って余りある地域だと思います。どうやったって美味くなるんで、そういう意味では初心者におすすめの土地だったりもしますね。

–それは知らなかったですね。勉強になります。僕も雨ことばに入って近隣で作ってる野菜を食べることが増えたんですけど、確かにここまで野菜をうまいって思ったことなかったです。

伊那はホントに恵まれてると思いますよ。

–これからの日本の農業について思うことなんかはありますか???

スケールがでかいなあ(笑) TPPとか色々言われてますけど、正直心配は何もしてないです。勿論そうじゃない人もたくさん居ると思いますけど、極論売るもの無くなってどうしよう??ってなれば、自然と「自分で作るしかねえ」ってなるじゃないですか。農業っていうメソッドを大きく捉えてしまうなら話は違うけど、農業=ビジネスというわけじゃなくて、僕は野菜作りを「営み」だと思ってるんです。 生産自体もミニマムだし、それこそ自給自足というレベルかもしれません。でも、みんな環境がそうなれば、みんなそうすると思いますよ。例えばTPPで海外産の野菜が入ってきたとしても、野菜の相場がいくらになったかな?くらいでしか考えないと思うし、野菜で食えなくなったら別にどっかの工場に働きに行きます。それだけじゃ食えないならまた畑やったり田んぼやったりして稼ぎます。「営み」として個人でやってる農家さんは多分そのくらいフレキシブルな考え方の人が多いんじゃないかな?伊那の野菜は、色々情勢変化が起きても強いと思いますけどね。

私生活について聞いてみた

–時期にもよると思うんですが、例えば繁忙期の生活サイクルってどんな感じですか???

その日の仕事量によりますが、忙しければ朝5時とかに起きます。午前中は畑に入って、午後出荷作業、また夕方少し畑に入って一日が暮れていきますね。事務仕事もあるので夜の方が遅いかもしれません。

–一日の睡眠時間てどのくらいですか???

5~6時間くらいです。

–趣味はなんでしょう???

音楽鑑賞ですかね。基本的にはJAZZとかが好きですが、新曲聞くのが好きなんで新譜をMP3プレイヤーに入れて聴きながら畑で野菜作ってます。最近はPerfumeとか好きです(笑)

–休みは何をしてますか???ていうか、休みってありますか???

うーん、そう言われると冬とかもなんだかんだ備蓄の野菜を発送したりもしてるので、なんにもない休みとかは年間10日とかしかありません。休みもなんだかんだで畑を見に行ったりします。仕事に追われない状態で見る畑もまた好きなので(笑)

–ファミコンが好きだそうですが、好きなタイトルはなんですか???

スーパーゼビウスです。

–座右の銘とかありますか???

またスケールの大きい話ですね(笑) うーん、なんだろう?「どうせ死ぬ」かな。

今後のことや起業について聞いてみた

–起業することについて心構えや大切なことってなんでしょうか???

僕は畑の事しか言及できないですが、野菜はやっぱり続ける事が大事だと思います。さっきの話の通り、多分最初の考えをぶち壊されて残るものが野菜の良さだったりすると思うので。あとはやり始める時の事は、単に清水の舞台から飛び降りれば自然と始まることなので、そんなに考える事も無いかな、と思います。

–でも、一般的には「やりたいことをやりたいけど一歩踏み出す勇気が無い」っていう人のほうが多いと思うんですけど、、、。

それについては、僕はなんとなく仕事を辞めてなんとなく畑を始めたので頭がおかしいんですよ。だから何かを始めたいなら頭をおかしくすればいいと思うんですよ。簡単なんです、辞めちゃえばいいよ!としか言えないです。どうせ死ぬんだから。今は救いの手がたくさんありますし、言っちゃえば国家のトランポリンが下で受け止めてくれるんで、よっぽどがなければ食いっぱぐれて死ぬことなんてないですし。

–(笑)確かに。でも実際その「今の生活を捨てる勇気」みたいなものがあるからみんな始められないんですよね。

語弊を恐れず乱暴に言っちゃえば「お前が大事にしてると思ってるものにぶっちゃけそんなに価値はないよ」って感じでしょうか。

–(爆笑)このまま記事にしてもいいですか、、、???(笑)

全然いいです(笑) でも、そう言われて、何クソって思って今の仕事に誇りを持てるならそれはそれで素晴らしいと思います。そこまで言い切れるなら、今の仕事を辞めてまで何かを始める必要はないですよね。そこは人それぞれだと思いますので。ただ、いつまでも何かを始めずに二の足を踏んでるなら、そのくらいの事考えてやったほうが絶対にいいですよ。今の仕事に文句言いながら働いているなら。

–ねつ野菜の今後の展望とかはありますか???

今は親や嫁にも手伝ってもらったりしていますが、親もいつかはいなくなるし、嫁は嫁でいつでも自分を切り捨てられるような関係でいたいです。一蓮托生でやっていくより、常に一人で働ける環境を意識しています。だから、この活動をなるべく継続する事が今の展望といえば展望です。人手を増やすことや事業の拡大とかは全然考えてないです。一人で出来るサイズの仕事を死ぬまで続ける事が今の僕の目標です。

–なるほど。そんなねつさんには愚問かもしれませんが、例えば、後継者の事や地域活性とかについてはどう思いますか???

後継者のこととかはやりたい人が勝手にやればいい話なので、それでたまに会って酒飲めればいいくらいでしかないです。地域自体が活性化するっていうことは必ずしも地域に対してプラスだとは思わないんです。即ち、活性するっていうことは必ずへこむときもあるわけで、僕的には地域の日常が総括して幸せであることの方が尊いと考えています。だから祭りとかは正直いらないと思ってます。攻撃的すぎるかな?
それよりも、変わらない毎日が続く方がよっぽど大事だと思います。 だからといって地域の為に頑張る人をディスるわけではないんです。きっとあの人たちは退路がない状態で必死になんとかしようとしてる人達だから、僕みたいな人間とはグラウンドが違いすぎると思うので。それはそれで尊敬です、本当に。 
ただ、こと「活性化」と掲げた場合の反作用の責任は誰が負うのか?と考えると、必ずしも「地域活性化」がプラスしかもたらさないとは言い切れないと思います。
個人的に言うと、やっぱり日々の「営み」のほうがよっぽど価値がある気がするし、その中で全員が楽しい日々を送れる事の方が理想だと思います。その全ての総和かな、と。

–やっぱただの農家さんじゃないですよ、ねつさん(笑) すごく有意義な話が出来ました。ありがとうございました(´・ω・`)

(このあとお互いの趣味であるファミコンの話で小一時間盛り上がった。ドラクエ4のエンディングが泣けるとかそういうレベルの話である。今度はファミコンを一緒に語ろうという約束をした。近日中に遂行しようと思う)

ゴリラの編集後記

当初から「絶対変人だな」と踏んでたけど、話してみたらやっぱり変人でした(笑)

ただ、とても強く感じたのは「労働」というタスクの価値が全然重みが違う事です。
ねつさんは相対的に個人でやる農家さんのことを話していましたが、僕が持ってる以上にフレキシブルな生き方なんだということに軽い衝撃を受けました。

「生業」と位置づけるよりも「営み」と捉えることで少しだけ分かった気がしましたが、僕達は何のために生きて、何をして暮らすのか、何が幸せであり、何をやって死んでいくのか。「労働」に対する考え方が少し変わった気がしました。

多分どれが正解だなんて言えないんだけど、何を選択するかは自分で決められるわけです。明日何が起きるかわからないこんな時代だからこそ、フレキシブルに考えられる生き方や世界を総括して生きられる強さみたいなものが、これからの未来を生きるために必要になってくるメソッドなのかな、と考えました。

自信を持って「伊那市の野菜が日本一」と言い放ったねつ野菜をこれからも食べ続けたいし、こんなに真面目に野菜のことを考えている農家さんが近所にいることに誇りを感じます。

影山家の家訓に「野菜には投資すること」があります。
便利すぎる外食産業が氾濫し、野菜を美味しいと思える機会がずいぶん減ってしまった世界に、ねつ野菜のような寡黙に自慢の野菜を作り続ける農家さんには、僕はこれからも投資し続けようと心に決めました。

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–なるべく自然に近いかたちで、
シンプルな栽培を心がけています。

ちいさな畑で営む、ちいさな農業。
だからこそ可能な、ちいさなこだわり。

すこしづつ、いろんなことを試しながら、
野菜づくりを行っています。–

ねつ野菜(ブログサイト)

–信州伊那谷から、とれたての新鮮野菜をお届けします。

農薬・化学肥料を一切使わず、
自然のままで育てられた野菜たち。

アルプスの空気をたっぷり吸い込んだ、
季節そのままの味を、
ぜひお試しください。–

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