或る肖像 ~エピローグ~
エピローグ 裕二たちは茂と由紀の眠る墓の前に立っていた。 「ここで寝てるの?」 遥は無邪気な笑顔で裕二に投げかけた。 「そうだよ」 そう言うと、手に持った線香を墓の前に供え手を合わせた。 墓場の南には大きな桜 […]
エピローグ 裕二たちは茂と由紀の眠る墓の前に立っていた。 「ここで寝てるの?」 遥は無邪気な笑顔で裕二に投げかけた。 「そうだよ」 そう言うと、手に持った線香を墓の前に供え手を合わせた。 墓場の南には大きな桜 […]
第四章 ~落日~ 晩秋の寺の中はとても寒かった。 劈くような冷気が、お経の間を縫って裕二の体をめがけて突進してくるようだった。 正座に耐え切れなくなったのか、龍一の一番目の子供が右後ろの方で何かを訴えている。 お焼香が回り […]
第三章 ~肖像~ 「これからどうするんだ?」 助手席で車窓の外をボーッと眺めている裕二に向かって、龍一が神妙な面持ちで裕二に尋ねた。 「どうするもこうするも、もう東京には戻れないからな」 龍一のデリカが生家の玄関先に停まり […]
第二章 ~黎明~ 由紀の見舞いから東京へ戻るバスの中で、裕二は流れる街灯の明滅を眺めながらこれからの事をずっと考えていた。 由紀が入院して何日か経った後、担当医から由紀は脳梗塞であることを告げられ、介護が必要になるとの旨を […]
第一章 手紙 年の瀬も迫った冬の日、忘年会でごった返す居酒屋でのアルバイトを終えた裕二は、寝入り酒をコンビニで購入し、疲労感に包まれたまま住み慣れた吉祥寺のアパートに帰宅した。 いつものように誰もいない部屋のドアを開け、玄 […]
プロローグ 桜の蕾が綻び始めた親水公園の川原に、一つの家族があった。 時折聞こえる高らかな子供の声は、これでもかと言わんばかりに青々と広がる空に向かって響いている。 「親父にそっくりだな」 春の麗らかな日差しの中で無邪気に […]