長野県箕輪町にある「ゆとろぎroom5884」。
2012年9月、自宅を改装してオープンした店内は、一見すると昔ながらの喫茶店の雰囲気を醸しているように見えるが、目を凝らせば店主「小林圭太郎」氏の遊び心に満ちた装飾で溢れかえっている。
席数も決して多くはないが、そんな彼の「人間」に魅せられ、根強いファンが何度も訪れる当店は、一般的なカフェとは一線を画している。
とあるイベントで出会ってからというもの、個人的にも深いお付き合いをさせていただいております、ありがとうけいちゃん(愛称)。
そんな、遊び心の塊の氏と対談してみました。
お店の事を聞いてみた
–なるほど。今ちょっと出たけど、恋愛とかも制約を持ってたの???
自分の性格を知ってるからね、構っていられなくなるってのもあるし、逆にその事に時間を費やしてしまう恐れっていうかもあるし。どうしても優先順位が女性になっちゃうから(笑)
–けいちゃんは「愛の人」だしね(笑)
自宅をリノベしてお店にした訳だけど、大体どのくらい予算かけたの???
改装の予算は大体50万円位かな。あと最初の運営費で30万円用意した。
働きながら大体のことはDIYでリノベーションしたから初期費用を抑えられたよね。自分で図面引いてレイアウトとか一人で模索しながらだったから2年かかったけど(笑)。で、オープン2ヶ月前には完成してた。
その2年はリノベしながらひたすら企画書書いたりシュミレーションをし続けたんだ、誰に通すとかじゃなくて、自分の為に。2年間誰よりもシュミレーションしてきた自信が持てたからこそ、「やれば間違いない」っていう気持ちを持った状態でオープンできたんだ。
その2年間はお店ごっこしてた感覚かな。でもそれって楽しい時間だったし、必要な時間だったよね。
–普通だったら身内に何かがあった場合、より安定した仕事を選択する人のほうが多い気がするんだけど、けいちゃんは店をオープンさせた。でもそれってやっぱ2年間で綿密にシュミレーションしてきたからこそ出来たのかもしれないよね。
安定とかお金っていうものの価値が人とは違ってるのかもね。金で命は救えるかもしれないけど、結局命の運ぶのは人間なんだし。
母ちゃんに何か起きたとき、自分が運ぶんだっていう意識の方が強かったんだろうね。
お金、経営の事を聞いてみた
うーん、年商なら700万円位かな。
給料っていう概念が無いから分かんないけど、それでも固定費とか考慮しないでも年間120万円位は自由に使えるお金が残ってる。そう考えると一般的なサラリーマンよりは自由なのかな。
–そこまで稼ぐのにも色々とあったと思うんだけど、飲食で起業を考える人が注意しないといけないこととかある?
うーん、店を開きたいっていう人って、割と金銭的にもいい面を見がちなことあると思う。故に企画書の段階でも数字に下駄を履かして算出しちゃうとこあると思うんだけど、そうなると現実とのギャップに朽ちていってしまう。やっぱりそんなにうまくいくことばっかりじゃないし、正直3ヶ月とか収入0とかでも平常心保てるくらいのメンタリティは必要だよね。むしろそこが何よりも重要だと思う。
–「何かを始めたい」っていう気持ちは大事だけど、現実的な部分も最初から考えないとね。
お店を3年間やってみて感じたこの業界のメリットって分かりやすく言うと何かある???
うーん、なんだろ(笑)考えたこと無かったな・・・。
あ、やってなかったら出会えなかった人にすげー会えたかも。ていうか、「自分を知ってもらえる発信が出来てる事」かな。俺やっぱ昔から自己主張が強かったと思うし、そういう面から見ても、お店を始めてなかったら出会えなかった人のところまで自分を発信できてる事。それはメリットなのかもしれないよね。
自分の店だし、制約も垣根もないわけで、自分の方法で自分らしい発信ができるのって、自分の店でしかできないからね。
–5884の売りって、やっぱ「小林圭太郎」なんだよね。
「お店」≪「人間」ていう感じって他の飲食店にはないじゃん?僕も「5884に行く」っていう意識よりも「けいちゃんに会いに行く」って感覚だもんね。それってこれからの時代絶対付加価値になるよね、代替えも利かないし。
だからデメリットってそれだわ、「代替えが利かないこと」!ここに俺が居なくなったら5884じゃなくなっちゃうね。代わりを立てられないわ(笑)
–確かにね(笑)でもそれってメリットだよ、やっぱり。
イベントの事を聞いてみた
–毎年恒例で「high峰」っていうイベントやってるけど、イベントに対する想いとか聞きたいんだけど。
地元を10年以上離れて帰郷した時に、萱野高原(high峰開催地)でなんかやりたいなー。って漠然と思ってたんだよね。箕輪の人達は中学生でみんな登るんだけど、昔はもっと盛ってたけど、今は殆ど知られなくなってしまった萱野高原で。だからもともとはお店やる前からイベントをやりたいって気持ちの方が先にあったんだよね。
5884のデザインやってくれてる友人と3年で計画を組み上げて開催したのが、5884を始めて2年目の夏の「high峰」だった。
萱野高原はやっぱりロケーションも最高だし、皆に知ってもらいたいっていう気持ちは強いよね、俺箕輪町を愛してるし。開催日を毎年「箕輪祭り」の日とわざと被らせるのも、祭りで打ち上げる花火を萱野から見下ろす為、普段とは違った箕輪の景色を皆に知ってほしいって気持ちがあるからね。
–まさに郷土愛だね(笑)地域活性とかも考えていたの?
考えてなくはないけど、それは念頭には来ないかな。結果そうなれば嬉しいって感じ。
町内だけの人間を集めても結局町内だけのもので終わっちゃうことが多いんだよね。「high峰」ってお客さんの大半は町外の人なんだけど、来てくれた町外の人達が更に萱野高原を拡めてくれて、それってまだまだ無限大の広告力があると思う。
まだまだ小さい規模だけど、それでも若者達がここまで声高らかに「箕輪が好き」って言ってると、やっぱ今まで箕輪を守ってきてくださった諸先輩方も嬉しそうだしね。
根本て、やっぱりその地域が「好き」っていう気持ちが大前提だから、その気持ちが自然な伝染をしていってほしいと思うよ。
起業にとって大切な事を聞いてみた
–最後にけいちゃんが思う「起業するのに大切なこと」って何かな???
7割が「覚悟」かな。
あとの三割は「スピード」「決断」「ワクワク」。
時間が経っても、できない奴ってできないんじゃないかな。「やりたい」っていう熱量よりも何よりも、「やる」って腹括れるかってとこだよね。
関係ない話になっちゃうかもだけど、この前の冬にちょっと気持ちがくすぶってる日が2、3日続いた時に、昔自分が備忘録的に書いてたノートを開いたんだよ。お店を始める直前にその頃の考えを纏めてたノートなんだけどさ、そこにはこう書いてあった。
「カフェを持ってる男っていいよね。みたいなステータスと文化を発信したい」
つまり、「時計を持つ」「車を持つ」「家を持つ」「家庭を持つ」と同じように、「カフェを持つ」っていう文化を作りたいんだって思ってたんだよね。
それ見たときに、もっとラフでもいいかな、って楽になれた。もともと自分の覚悟はそこにあったんだ、って。
それなりの覚悟はあるとは思うけど、例えばみんな300万円の車は買うけど、同じ金額でも店出せるわけでさ。家買う覚悟あるなら店出せば回収できるかもしれないんだけど、何故かその覚悟は無いじゃん。そういうステータスの中に「カフェを持つ」って文化が出来れば面白いなー、って俺の基本はそれなんだなって。
覚悟って価値観でもあるのかもね、「やるんだ!」って構えるから覚悟ができないけど、自分のステータスの一部として考えられるなら、そもそも腹括るとかでもないのかもしれないし。
ゴリラの編集後記
実はけいちゃんとこんなに真面目に話したこと無かった僕ですが、今回話を聞いてて思ったのは、彼は一見すると俗に言う「自由人」にも捉えがちだけど、めちゃくちゃ綿密に考えてる人だなあ、と感じました。
どの伏線にも一貫したシュミレーションを経てるからこその今の5884なわけで、その結果として、どんな状況でも冷静に自分を表現できるどこまでも強い人間なのだな、と思いました。
昨今、飲食業界でのいい話はあんまり耳にしません。
飲食分野での人手不足も一端ではありますが、例えば5884のように、「お店」≪「人間」のような人間が前に出てくる面白いお店なら、「やってみたい」って思う子供達も増えるかもしれません。
フランチャイズが増え、サービスもマニュアル化して、そこに人格なんて度外視されてしまった最近の飲食業界にとって、いい意味で「人間臭い」5884のような個人店は明るい指標を携えた稀有な例なのかもしれませんね。
嘆くばかりではなく、業界の根本改革こそが課題なのかな、と痛感しました。
【ゆとろぎroom5884】
長野県上伊那郡箕輪町中箕輪8445-1
0265-79-6257
不定休