茹だるような暑さに包まれながら、東京にあるとある部屋を訪れた。
音楽を趣味とする人なら思わず声をあげたくなるような機材が並べられた中に、作曲家のスキャット後藤(@scatgoto)さんは居た。
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実は2017年の秋頃、とあるきっかけでお知り合いとなり、今年の2月にはAKB48グループのイベントのお仕事を紹介してくださったりもして、ちょくちょく連絡を取らせていただいている。
前々から「対談」のお願いをしていたところ、スキャットさんが運営しているyoutubeの番組に出演しながら対談をしようということになり、今回新しい形での対談となった。
その道でもう長いキャリアを持つスキャットさん、その経歴もものすごいもので、驚いたのは僕が昔プレイしたゲームの音楽を作ってたりと、感慨深すぎたりする。人生って面白い。
そんなスキャットさんに、根掘り葉掘り聞いてみた。
※今回連動している「スキャットさんのニャニャニャ」では、ブログに書かれていない話も沢山収録されています。是非併せてご覧ください。
スキャット後藤さんに聞いてみた
影山:::いつもお世話になっております。 今日はスキャットさんのyoutube番組とのコラボっぽくなりますが、関係なく年収とかバンバン聞きますのでよろしくお願いいたします!!
スキャット後藤:::新しい取り組みで面白そうですね、なるべく隠さずに話したいと思います(笑)よろしくお願いいたします。
–まずは簡単な経歴などを教えていただけますか?
出身は京都で、実家が文房具屋さんなんです。 一時期は家業を継ぐことも考えたりもしたんですけど、小学生のころから何かを作ることが好きで、それが高じて京都産業大学の工学部(プログラミング)に進みました。
–音楽的な始まりって何だったんですかね?
ちょうど青春時代にTMnetworkが流行ってて、その音楽性や歌詞にすごい影響を受けたんです。なので高校時代は作詞をひたすらやってました。作曲も興味があったんですけど全然楽器には手は出さずでしたが、大学に入って初めてシンセサイザーを買って。全然弾けなかったんですけど(笑)
–そこからどうやって音楽家への道を切り開いたんですか?
打ち込み自体はその頃も一定のムーブメントは有って、プログラミングもやっていたのでなんとなく作曲は始めていたんですけど、大学時代に後輩からゲーム制作会社のトーセで作曲のバイトがあることを聞いて、バイトを始めたのがきっかけですね。
–じゃあ、そのままゲーム会社のサウンドクリエイターとして作曲業を始めたということですか?
そうですね。そのあとゲーム会社のサウンドをいくつか経て、フリーランスになりました。なので「プロを目指そう!」みたいな強い意識があったというよりは、自然と独立まで至った感じが強いかもしれないです。
–正直僕が子供のころにプレイしていたゲームの音楽を作っていたのが後藤さんだったとか、本当に感慨深いものがありますね、、、。 ちなみにフリーランスになって年収ってどれくらいなんでしょうか??
お金の話来た(笑) そうですね、ここ三年間は確定申告で消費税を払うくらいはありますけども、年によって違うので不安定です。 フリーランスになってから定期収入の仕事が一つも無いですから。
–おお!大台ですね、すごい、、、。
実際、千葉県と東京都のスタジオの二拠点で活動しているのですが、家賃だけでも月20万円位は持っていかれるので、毎月の必要経費だけでも結構かかります・・・。
–なるほど、、、。その辺は生活のコストが低い田舎とは全然違いますね。 千葉と東京で分けているのはなぜですか?
一応家族は千葉の自宅で暮らしているんですけど、僕は東京の現場とかも多いので東京に部屋を借りている状態です。
–フリーランスになって19年目ということですが、プロになってうまくいったことはありますか?
そうですね、、、僕は割と他力本願で今まで来てだいぶラッキーが続いてくれてる気がしてます。本当に仕事がなくなりそうな時に仕事が来てる感じです。
–-それはすごいですね(笑) あの秋元康さんからの指名とかもあると伺っているのですが?
そうですね。 とあるきっかけで仕事が一緒になってそれから不定期で指名をされたりはしています。 ただ、僕から秋元さんにアプローチするとかは無いんですけど。
–仕事を依頼されるために必要なことはなんだと思いますか?
何の業種でもそうだと思うんですけど、ある程度のイメージ作りは大事だと思います。 例えば、「家を建てたい」って思ったとき、特に様式とか拘らない人なら建築会社はどこでもいいから予算に応じた建築会社に問い合わせると思うんですけど、拘った人は「あの建築家に頼みたい!」みたいになると思うんです。
–確かにそうですね。
音楽制作ってまさにそういうのに似てるところがあって、今ってどんなジャンルでも作ろうと思えばすぐ作れちゃうじゃないですか? そこが結構勘違いしちゃうことろなんですけど、そうなってくると、その人が何を売りにしているのかボンヤリしてきちゃうので、「あの人に頼みたい」っていうのが薄れてなんでも屋さんになっちゃうんですね。 そうするとなんとなく安く仕上げてくれる便利屋になってしまうので「あの人に頼みたい」みたいな感覚でのクライアントは離れていっちゃうと思います。
勿論幅広くクオリティ高く作れる人もいますけども、そういう人は桁違いにすごい人です。
–なるほど、、、。 では、依頼を断ることとかあるんですか??
それでも、仕事って自分の好きな事ばっかりじゃないのですが、依頼を断ることはほとんど無いですけど、そのプロジェクトのクオリティーをあげるために部分的に他の作曲家にお願いする事もあります。
プロデューサー目線でいうと、なんでも自分がやるのはよくないと思って。浅く広くではなくて深く広くがいいなと。
「好きな事ばっかりじゃない」と感じるのは、自分に向いてない依頼ということが多いので。
–ディレクション的な動きですね、それも一つの手段ですよね、、、。 では逆にうまくいかなかったことなどはありますか?
そうですね、、、どのフリーランスでもそうだと思うんですけど、当てにしてた仕事が突然消えちゃったり、一時期仕事が順調な時に突然色々な依頼が止まってひどい目に合ったことがあります。 なので、ほんとに油断はいけないなあ、と(笑)
–それは本当にそうですね。 どの個人事業主も同じかもしれないですね、、、。 そういった中で、個人的な音楽講座「ケモノミチ」も運営に至ったのでしょうか??
本当は個人的には講座的なものは否定派なんです(笑) 高い授業料払う割にプロになれない講座が沢山あるので。 僕的には今までの実用的な経験を安い金額で提供できれば良い、という想いで始めました。 あとは請負ではなくて自分で仕事を作るという意味もあります。
自分ができることを考えた時に、本当に作曲家を目指してる人のことも前提ではあるんですけど、本当に作曲家を目指してる人の「何をしたらよいか?」から行動に至る一歩手前の事を教えられたらなあ、と思っています。
–確かに今はいろんなサロンや講座も一つのビジネスとして氾濫してる感は否めないですね、、、。 講座の内容としてはどのような感じなんですか??
受講者の皆さん、それぞれ環境も違うし求めることも違うので、僕が一方的に何かを教えるというよりも、聞きたいことを話す。というスタンスが多いかもしれないです。
–講座はじめ、今回コラボしているyoutube番組の「スキャットさんのニャニャニャ」など、発信することのメリットとかは明確にありますか?
発信する事って、何も自分から出してるだけじゃなくて、逆に自分じゃ気が付かなかった情報が集まってきたりするんですよね。 例えば、音楽ソフトのレビュー書いてるブログとかだと「こうだ!」って発信したら「それは違います!」って返ってきたりするみたいな。
–僕もブログ書いてますけど、確かにそういうのはすごいメリットですよね。 普段は仕事の営業とかってされるんでしょうか??
いえ、殆どしないですね。 ちょうど影山さんに出会った去年の秋ぐらいに本当に仕事が無くてちょろっと営業してたりしたんですけど。 した方がいいかな?とは思っているし、そんな中の講座だったりニャニャニャだったりするので。
–なるほど。 では、スキャットさんが思う「プロ」ってなんなんでしょうか??
単純に「職業」であるということくらいしかないですね、仕事を頼まれるか頼まれないかの違いだけというか、、、。 作曲家ってあまりにも一般的ななじみが無さすぎるだけで、本当は他の業種と同じなんだと思います。取引先もちゃんとした企業ですし。制作会社とかテレビ局とか。
–確かに音楽家って一般的ではないですよね。ほかの業種と同じというのも言われてみると確かにその通りですね、、、。
あと最近とても思うんですけど、例えばSNSで全然無名とかでも仕事さえあれば食っていけるんですね。 なんか作曲家として有名にならないといけない、みたいな風潮があるんですけど、全然そんなことは無いので。
–そういう節は確かに感じますね、、、。 じゃあ、もしスキャットさんが今の時代にこれから音楽家を目指すとしたら何をしますか??
うーーーん、難しい質問(笑) そうだなあ、サウンドクラウドとか配信使って自分の作品を発信はすると思うけど、自分が興味あるものに対して徹底的に掘り下げて、その界隈の窓口にアプローチしたりするかな、、、。 僕の場合は本当に他力本願なところもあるので、周りの友人にもよっても変わるかもしれないですけど、、、。
–スキャットさんの性格上、すごい戦略的に動きそうなイメージもありますが(笑)
まあ、確かに戦略的には動くと思います。
実は、25歳くらいの自分だったらこういうことやるかな?と思ってやってるのが「ニャニャニャ」だったりします。 46歳になって初心に返って、基本に戻ってみようといろいろと試してます。
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日常について聞いてみた
(制作は基本MacBook Proで行っているそう)
–一日の睡眠時間は??
東京のスタジオに居る時と千葉に居る時だとちょっと違うんですけど、大体7時間前後かな、、、。
–しっかり寝ていらっしゃるんですね。
そうですね、家族といる方が圧倒的に多くて、千葉に居る時なんかは田舎なので22時とかに眠くなっちゃうんですよ。それで5時とかに起きて7時から仕事したりしてます。 やっぱり寝ないと仕事にならないので。
–趣味はなんでしょうか?
テレビかな。 テレビ大好きですね、なのでテレビ関係の仕事も大好きです。バラエティとかトーク番組とかです。
–好きな食べ物はなんですか??
子供っぽいものが好きですね。ハンバーグとかメロンソーダとか(笑) あと最近うどんが大好き。特にカレーうどん。
–スキャットさんはいつも可愛らしい感じありますもんね(笑) 尊敬する人とかはいらっしゃいますか??
うーん、状況とかジャンルによって変わるけど、常に思うのは親への尊敬度は年々上がってる気がします。 あと、新潟のハヤシユウ(@884yuu)くん。彼のような行動力ある人はめっちゃ憧れます。
–確かにめっちゃわかります。 座右の銘はありますか?
パンツ脱ぐのもタイミング、かな。検索してみてください(笑)
–オフの日は何をしていますか?
テレビとか、あとyoutube見たりしてます。 最近好きなのはキャンプの動画とかですね、お笑いのヒロシがやってる「キャンプ動画」。
–なんか意外(笑) 一日の作業時間はどのくらいですか??
大体2~3時間とか。集中して仕事してる感覚でいうとそんなもんです。 あとはダラダラ(笑)
–めっちゃ少ないですね、、、。
忙しい時は8時間とか普通にやってますけどね。 でも、売れっ子で忙しい人ほど一曲にかける時間て短いので、そういうのが理想ですね。 ただ、その時間に一番集中力が高まりそうな時間を合わせたりとか、そういうタイムマネジメントはしています。
–大事なことですよね、、、。 今の夢は何ですか??
ずっと音楽で食べていきたいな、ということですね。 ま、音楽じゃなくても、何かエンターテイメントで食っていきたいと思います。 いつか仕事の依頼がなくなったら、70歳くらいで
オーディオストックがんばってるかもしれません(笑)
最後に聞いてみた
–夢、とも重複してしまうかもしれませんが、これからの展望などを教えてください。
とにかく、今ある仕事をきちんと最後まで責任を持ってやる。それがまた新しい仕事に繋がると思うし。 やっぱりフリーランスなんで、食っていくことが大前提ですね、生きるか死ぬかなので。
–簡潔かつ重い言葉ですね。
子供が成人するまではなんとか今の感じを維持したいと思います。 それには、時代の流れとかに流される部分とブレない部分の見極めがすごく大事だと思います。
–テレビ等のメディア業界の仕事は特に大事なのかもしれないですね。
僕ももういい歳だし、一般的には40歳を超えると仕事が減ってくると言われてる。 僕は今も運良く仕事が来てるけど、時代に沿っていくなら当然若手のクリエイターにどんどん仕事が回っていくだろうし、僕もいつか今とは違う仕事の選択肢も出てくると思います。危機感はいつもあります。 そうなったときに逆に年齢を売りにしたような、たとえば「おじいちゃんの歌声」なんかは若い人には出来ないので。
今でもたまにやってますけど声の仕事も増やしていきたいです。
–最後に質問させてください。 これから音楽や作曲でフリーランスを目指す人に伝えたいことや大事だと思うことはなんですか?
そうですね、、、 ミスやトラブルが起きたときに、どれだけ責任が取れるか?それに対する行動やお金や技量があるかどうか?そういうリスクヘッジはいつも考えた方がいいと思います。 DTMが流行したり、お金にするようなサービスが増えた今は音楽制作って誰でもなんとかプロになれそうな錯覚をしやすいんだけど、お金をいただいて仕事とする事って思ってるほど軽い事じゃないんですよね。
ひとつの会社を立ちあげて事業をするという感覚で音楽の仕事をするとイメージが湧きやすいのかもしれません。
–マネタイズや発信の間口が広がった分、そういう責任感みたいなのは薄れてしまってきているのは確かに自然かもしれませんね、、、。
音楽に限らず「仕事」ってやっぱりそれなりの覚悟や姿勢が大事で、例えば機材一つにしても、音楽で食っていきたいのならそれなりの投資だって必要で。 例えば飲食店やるにしたってそれなりの資格や経験や設備が必要だったり、ちゃんとした準備が必要だったりするわけで。 音楽作るのって今は誰でも簡単にできてしまうけど、それだけじゃ厳しいですよね。
–趣味なのか仕事なのか、その辺も他の業種と置き換えるとはっきり見えてきますね。
逆にそういう中で自分の感性を磨いて欲しいです。 先人の正解が必ずしも万人の道しるべになるわけじゃないだろうし、何かが出来るだけでも駄目だし。 技術はもちろん、発信の仕方とか、コミュニケーションの力だったりとか、発想と行動のバランスとか、そういう独自の感性を大事にしていけばよいんじゃないでしょうか??
ゴリラの編集後記
今まで対談もいろんな方とやってきたが、ここまでフリーランスとしてのキャリアを持つ御仁との対談は初めてだった。
普段から可愛らしいお召し物やキャラクターのおかげで、スキャットさんのイメージはすごくフランクなものだったが、仕事に対する姿勢だったり現状に満足しないストイックな部分だったりと、本当にいつも危機感を以って生きていらっしゃるのだと感じ、脱帽した。
昨今のDTMのブームやマネタイズサービスの進化で、確かに誰でも夢を見られる「作曲家」という職業だが、こうして改めて考えてみるとそのマイスターとなる可能性はどの業種よりも低い気がする。
今日の模範は、明日には時代遅れになっているかもしれない。
そんな中でどうやって生き残るのか、どうやったら家族を養っていけるのか、そういう危機感に裏付けされたスキャットさんの言葉は、ただただ重く感じた。
仕事に関して言えば、フリーランスだろうと雇われだろうときっと同じだろう。
趣味と仕事の違いといえば、明確なのは責任なのかもしれない。
作曲家、言葉にすると華々しいけれど、それで生きていくことはどんなに難しいだろうか。
対談を終え、帰宅ラッシュの地下鉄で帰路に就いた。
沢山の人に囲まれて僕がいつも思うことは、自分の小ささと、僕にいったい何ができるだろうという自問だ。
新宿駅のホーム、行き交う人々の雑踏がやけに耳にこびりつく。
まるで今日の一言一言を反芻させるような、そんな気がした。
スキャット後藤
音楽プロデューサー・作曲家。音楽制作プロダクションcutecoolを主催。
フリーランス19年目。
1994年より京都大山崎のゲーム会社にてサウンド開発の仕事をはじめる。
1997年、上京。2年半会社員としてゲームサウンド開発に携わる。
2000年5月 会社に所属してるより自分で直接いろんな繋がりがある方が
リスクが低いと思いフリーランスの道へ。この頃からゲーム以外のテレビ番組やCM音楽の仕事をはじめる。2016〜17年は秋元康氏プロデュースの欅坂46やAKB48のドラマに参加、音楽プロデュースと劇伴を担当する。音楽ゲーム『スクールガールストライカーズ ~トゥインクルメロディーズ~』に楽曲提供。2018年、「青春高校3年C組」「きらきらアフロ」「君は放課後、宙(そら)を飛ぶ(私立恵比寿中学)」などの音楽を担当。
レーベル「cutecool」
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フリーランス作曲家講座「ケモノミチ」
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※今回連動している「スキャットさんのニャニャニャ」では、ブログに書かれていない話も沢山収録されています。是非併せてご覧ください。