「このやり方で正しいのか?」
思えば、長い音楽活動の中でいつもその言葉を頭の中に巡らせ、自問自答を繰り返している気がする。
heartleafは現在、僕と嫁の二人で活動している。
もともとは僕のソロプロジェクトであったheartleafに、結婚と同時に嫁が加入した。というか、ほぼ僕が無理矢理加入させたと言ったほうが正しいのかもしれない。
嫁は小さい頃にクラシックピアノと声楽を学び、高校生の頃にバンドをやっていたものの、社会人となってからは本当に趣味程度にしか音楽には触れていなかったらしい。
かたや僕といえば、マイペースではあったもののライブやリリースを続け、レーベルを立ち上げ、音楽をマネタイズすることまでしてきた。
嫁が加入する際に「僕は多分音楽のことになると五月蝿くものを言うし、家族とはいえ、一緒に音楽をやるなら一切妥協はしたくないから覚悟して欲しい」とまで言い放った。
それでも嫁はheartleafのメンバーとしてやっていくことを決めたのだった。
嫁と僕とは絶対的に経験値が違った。そんなことは百も承知だったつもりだが、いざ同じバンドとして動かしてみると、思っている以上に二人の差異に頭を悩ませた。
去年、リリースと同時にツアーが決まっていたので、アレンジや練習も緻密に繰り返した。
練習では僕が嫁にきつく言ったことが何度もある。
二人でやって最高値が出せないなら、僕一人でやったほうがいい。うまくいかないことを体調のせいにするな。
そんなことを言い放ったこともあった。
その時嫁はheartleafに加入して初めて泣いた。
これからもずっと一緒にやっていきたいか?と尋ねると、「分からない」と答えた。
当時身重となった嫁に対して酷な要求をしていたことは分かっていた。
ただ、自分が望み、ステージに立つ表現者ならば、甘いことなんて言っていられない。自分が決めたんだから。
お金を払って僕達のライブに足を運んでくれる人に、「heartleafは体制が変わって間もないし、体調悪いし、こんなもんで勘弁してください」なんていうライブなんてできないのだ。
酷いと思われても仕方がないけど、僕達はバンドマンだ。
正直、親の死に目に会えなくても仕方ないって思ってる、僕はそういう男だ。
二月に子供が生まれ、生活もだいぶ落ち着いてきたので、先日再びバンドを始動させた。
相変わらず、僕は嫁に厳しい。
正直、よく揉める。
でも妥協は出来ない。
そんな堂々巡りのあと、よく思う
「このやり方で正しいのか?」と。
ふと思った。
嫁だけじゃない、今まで組んできたバンドもそうだった。
バンド内で、僕は歯に衣着せぬ発言でものを言ってきた。
メンバーと何度も喧嘩もした、そのせいでバンドを辞めてしまった奴もいるし、何も言わず連絡が取れなくなってしまった奴もいる。総スカン食らってハブられたこともある。
僕はそいつらのことを、「結局そんなもんだろう」と追いかけもしなかった。
きっと僕に恐怖を感じたやつだっている。
好きな音楽だから絶対妥協なんてしたくないし、甘いこと言ってるならその程度のものしか手に入らない。
でも、うまくやるやつなら、そんなことにはならないのかもしれない。もっとうまいやり方があったのかもしれない。
自分でもよくよく考えると、
もっと違う言い方があるんじゃないか?
もっと違うやり方があるんじゃないか?
そんなことを考える。
僕は求めすぎなのか?
プレッシャーでしかないのか?
僕は間違っているのか?
そんなことなら、なんで音楽やってるのか、意味さえ分かったもんじゃない。
バンドは、良くも悪くも他人次第なところも大きい。
だからこそ僕は、他人に左右されたくないから、バンドを離れてソロプロジェクトとして活動を始めた。
「レベルを低いやつに合わせたら絶対に成長しない」
バンドに関して、いや、この世の組織というもの全てに共通すると、いつからかずっと思っている。
千差万別、人間の、物事に対するベクトルは違って当然だが、同じ船に乗って航海に出るのなら、せめて同じところを見てないと船は沈没してしまう。
最近改めて、僕は自分の今までのやり方と、これからのマネジメントを一度考えるべきだと思っている。
嫁と僕の経験値なんて絶対埋められないし、そこを埋めて欲しいとも思わない。僕はずっとそう思ってるが、きっと嫁的にはその問題は大きいはずである。
どうやったら嫁がもっと楽しく音楽を続けられるか、どういうギターを弾けば嫁が気持ちよく歌えるのか、そんなことばかり考えてる。
そんな考え方は今まであまりしてきた記憶がないが、赤の他人のバンドメンバーではなく、嫁と音楽をやれているという事自体、幸せなことだと思うから、僕はもっともっと、自分の音楽に向き合わなければいけないし、そうでなくては、他者を幸せにする音楽など作れる気がしないのだ。なにより、この環境を与えてくれる、メンバーである嫁に感謝を忘れてはいけない。
今までは殆ど自分のために音楽をしてきた。
でも最近はまた少し違う。
セックスだと思った。
独りよがりではダメなのだ、相手がいてこそ成立するものだし、相手を気持ちよくさせられないのなら、ただの自己満足でしかない。
僕はそうでありたくない。
メンバーが楽しそうにバンドをやってくれることが、何よりの幸せだ。
明日も明後日も、これからもずっと、幸せそうに歌う嫁の傍らで音楽していきたい。
そう思うんだ。