影山(@heartleafkk)です。
ちょっと前に対談した伊那市の農家「ねつ野菜」の根津氏が毎週刊行している小さい冊子があるんですけど、その文才を十二分に発揮したセンテンスと類まれなる世界観が随所に見受けられる内容で、毎週凄く楽しみにしてるんです(毎週売り物の野菜と一緒にお店に届く)。
(各所に細かな気配りが見られ、無駄にクオリティの高い冊子となっている。)
そんな折、最近とても興味深い内容のものが届き「是非僕のブログで紹介させてください!」と申請したところ快く快諾くださいましたので、今回は氏よりの寄稿という体で以下センテンスを掲載いたします。
それでは。
畑にお似合いな音楽ジャンル
畑には、意外とどんなBGMも合う。
集中力に欠ける耕作者は、屋外において備中鍬と同じ頻度でMP3再生機を常備しており、あらゆる曲を畑でプレイしてきた。今回はその成果として、ジャンル別に畑とのマッチ具合を列挙してみたい。
【カントリー/民族音楽/ニューエイジ】
わざわざ挙げるのも馬鹿らしくなるくらい、当たり前に畑と合う。
自分がその手の自然派ドラマの登場人物になったような気分を味わえる。浅く、ナチュラルな陶酔が得られる。やや似合いすぎて気持ち悪い側面も。
【ロック/ブルース】
これも似合う。
ブルースも四十年代のものになると、ノイズに時代のフレーバーが加わり、まるでリンカーン登場以前のアメリカ南部における綿花奴隷の気分を味わえる。概ね暗い気分になるが、作業は捗る。
【昭和歌謡/演歌】
このジャンルの特徴は、脳に定着したら剥がれないキラーフレーズが満載な点だ。つまり、容易に口ずさめることにより、全く同じサビの歌詞を全力で繰り返しながら大根を引き抜く等の、ファイト一発的パワープレイを見込むことができる。
そういった馬力系の作業に合うのは、何故か女性が歌う歌謡曲だったりする。そして、作詞が男性だったりするのが根の深い業を感じさせる。
【レゲエ】
合わない訳がない。レコード盤の溝に土埃が挟まってるんじゃないかと思える程のアーシーさは、カントリー同様似合いすぎて若干ベタつく感触さえある。
実は作業中よりも、作業に向かう軽トラで聴くのが最も心地よい。
【ヒップホップ】
意外にも、畑に合う。
ヒップホップが本質的に抱えるブルーカラー独特の垢抜け無さに加えて、ゲットーが抱えるコンプレックスと農業従事者のコンプレックスは思ったよりもシンクロ度が高い。
作業しながら彼らの鬱屈を爆音で説かれると、知らずのうちに半泣きで手に力が入る。仕事しながらの説教は伝わりすぎて恐ろしい。
【エレクトロニカ】
いよいよ電子音楽が登場する。そして、これもまた、意外に畑との好マッチングを見せるジャンルだ。
エレクトロニカ独特の、精緻に刻まれたシーケンスの打ち込みは、そのまま畑の植物をつぶさに観察して描かれた水彩画のようにも思える。聞きながら作業をしているとやたらと顎の下に指を当ててしまう。その姿はおそらく、ファーブルや牧野富太郎を気取っているのだろう。
【テクノ】
電子音楽の中でも、踊りに特化した機能性楽曲をテクノと呼ぶ。
若い享楽的な男女が地下の暗がりで、こういった曲を聞きながら夜な夜な踊る訳で、畑にはおよそ縁がないジャンルと思われるのだが、実は、このジャンルが一番農作業に合うのだ。
しかも、ミニマルテクノやディープハウス等の、装飾を一切排した、単なるリズムの配列になるまで音を絞り込んだものが良い。
効果は言わずもがなで、聞いているだけで作業効率が格段に上がる。情感豊かなデトロイトテクノ等も程よい高揚が得られる。惜しむらくは、つい爆音で聞きすぎて難聴気味になってしまうことか。これは職業病になるのだろうか。
【フォークソング】
実は合いそうで、合わない。
概ね都会の人間が作った自然賛美が多く、リアルな農作業中には、「何をモヤシっ子がナメたことを…」と無用なイラつきに支配されてしまう。心が広ければ受け入れられるかもしれない。
【ジャズ】
全く合わない。あらゆる音楽を受け入れる「畑」というフィールドにかかれば、大抵の音楽は、ほんの少しでも内包している「田舎成分」を増幅され、結局体の良いBGMになってしまう。
しかし、ジャズだけは完全に都会の音楽なのだ。田舎成分ゼロ。畑で聞いていると、はっきり邪魔なノイズにしかならない。
ここで問題になるのは、僕がジャズを大好きな点だ。
大好きな曲を畑でガンガンかける。そして、かければかけるほど似合わない。違和感で歩幅がおかしくなる。作業効率はみるみるうちに落ちてゆく。目が回る。しかし負けてはならない。いずれ、ジャズを我が畑に引きずりおろすその日まで、嫌でも意地になって聞き続けるのだ。