2016年師走、長野県伊那市の老舗ライブハウス「GRAM HOUSE(グラムハウス)」が、伊那市駅前にリニューアルオープンを果たした。
元々の場所から市内で何度かの移転を重ね、およそ25年にも登るグラムハウスの歴史にまた新しい音楽の息吹が吹き込まれる。
産声を上げたばかりのグラムハウスに入ると、所々まだまだ初々しさを肌で感じられるものの、少しづつライブハウスらしい「汚れ」が塗り込められていくと思うと、いち音楽人として多少過度の期待を禁じえない。
かくいう小生も高校時代には前グラムハウスでライブデビューを果たし、この地を離れて音楽に勤しんでいた際にもツアーで何度か伊那に還ってきた事を思い出すと、今もこうしてライブハウスとして現存していることに些か喜びを感じるのだ。
今回はそんな新しい門出をその両肩にて打ち開いた当主、大澤良太朗氏に根掘り葉掘り伺ってみようと思う。
ここ最近heartleafでも何度かステージに立っていることもあり、バンドマンとしての視点でも、普段聞けないようなことまで氏に追究を謀るとする。
良太朗さんに聞いてみた
–えー、それではよろしくお願いいたします。結構な勢いで普段聞かれないような事まで聞いていきますが、オフレコなとこはカットできますのでお気軽に仰ってください。ざっくばらんに話せたら最高です(笑)。
良太朗氏::はい、よろしくお願いいたします(笑)。
–まずはライブハウスという仕事についてお聞きします。現在はグラムハウスを経営されて何年くらい経ちますか?また、その経緯などをざっとおしえてほしいのですが、、、。
僕が経営するようになったのは2008年くらいからだった気がするので、今年で9年になりますね。もともとは最初にあったグラムハウスで働いていたんですけど、元オーナーに「店長やってみない?」って言われて、その頃月一とかでもイベントを組んだりもしていたし、ブッキングとかにも加担してたのもあって「やってみようかな、、、」的にヌルーッと始めました。漠然と。少なくとも志を高く持った感じで始めたわけではなかったですね(笑)
–そうだったんですね(笑) ちなみにグラムハウスってどのくらい歴史があるんですか?あと個人的にずっと気になってたんですが、「GRAM HOUSE」って、名前の由来とかは何ですか?
うーん、前のオーナーからもそこら辺を曖昧にしか聞けてないんですけど、1992年位に始めたような気がすると言ってたので、25年くらいですかね。 名前の由来は知らないんですよ(笑)結構いろんな人に聞かれるんですけど(笑) なんというか、色々を曖昧に受け継いできたのもので、、、。
–そんなこともあるんですね(笑) もし前のオーナーさんにこの記事が届いて見てくれたら、もしかしたら由来を教えてもらえることを願っています(笑)
あの、これ、対談する方々に全員に聞いているのですが、ぶっちゃけ年商っていくらくらいですか?
えーと、、、、
すみません、やっぱそこオフレコでいいですか?(笑) でも、一つ言えることは、ギリギリですね(笑)
–いえいえ、不躾な事を聞いてすみません(笑)。
じゃあ、ギリギリ食えてるレベルってことでいいですかね?
そうですね、それでお願いします(笑)。 ただ、ここ1、2年は、ギリギリでアウトでしたね(笑)
–まあ、地方のライブハウスって潤ってるって話聞かないですよね。 みんなギリギリで頑張ってるんでしょうね。 ギリギリアウトだと厳しいですけど(笑)
うーん、前の移転の時は当初の見込みの年間売上に届かなかったんですよ。 前のグラムも立地としては面白かったんですけど、グラムハウスの未来を考えたときに今のこの場所に移ろうと思いましたね。経営的な面のこともあるけど、立地のこともやっぱり考えたし、町との噛み合いとかも色々考えて。
–そうなんですね。 ここはもともとパチンコ屋さんだった物件だった思うんですけど、移転に伴う費用とかって結構かかったんですか?
そうですね。結構かかりました。そのパチンコ店が閉店して19年も誰も入らなかった物件だったので、金銭的なことだけじゃなくて本当に色々あって苦労をしてやっと移転できたって感じです。 前の移転の時も本当はここに移りたかったんですよ。 けど、そんなこんなで色々と問題が多い物件でその時は無理だったんですけど。
–なるほど。ご苦労様です。 そんな大変な思いをされながらもライブハウスを経営されているわけですが、経営の事はどこかで学ばれたんですか? また、ライブハウスを経営するのに必要なスキルとかってありますか?
いや、全く学んでないです(笑) 必要な事かあ、なんだろう、、。「しぶとさ」かな?
あとはやっぱり、好きじゃないと無理ですね、何の業種でもそうだと思うけど。 音楽もライブハウスも好きだから続けられてるってのはありますね。
音楽のことを聞いてみた
–現在の伊那の音楽シーンやバンドについて思っていることや期待していることなんかがあればお聞きしたいです。
例えば、今年デビューしたKOZUMIとかはメンバーが全員伊那出身でグラムハウスで育ったこともあったり、ちょいちょいインディーズデビューするバンドのメンバー内に伊那出身の子がいたりとか、それなりに目指すべきところに向かって頑張ってるものが形にはなってると思いますね。
ただ、そういう子達はみんな伊那を離れている子達なので、逆に伊那を背負って外に出ていくヒーローみたいなバンドは今の伊那市には居ない気がします。 そういうヒーローみたいなバンドが出てくれば自然と音楽人口もシーンも活性化は勝手にしていくと思うので、そのへんはずっと期待してるし、育てていきたいという思いはありますね。
–なるほど。 たしかに伊那発でデビューしてるバンドっていないですよね。 積極的に外に出ていくのは本当に大事だと思います。 そのへんのこともバンドマンたちには話したりしますか?
そうですね。 自分達のことを全く知らない場所に行ってどんだけのことができるか試してくれば?的な事はよく話しますね。 バンドってそうやって繋がりを作っていくものだと思うし、そういう活動が一番成長すると思うのでどんどん県外に出ていってほしいとはずっと思ってますね。
–グラムハウスのブッキングって、県内でも伊那でしか見られないようなバンドがよく組まれてたりする気がするんですが、そのへんのことは考えがあってのことですか?また、ブッキングするにあたってこだわりとかはありますか?
昔のグラムってツアーバンドがなかなか来ないハコだったんですよ、ほんと年間で数組とかいうレベルで。 でもそれだと地元のバンドやお客さんにも新しい出会いや刺激が無いわけで、じゃあどうやったらツアバン呼べるかな?と考えて。 で、よくメールとかで出演依頼をするのとかも方法としてはあるんだけど、なんかそういうやり方は自分的には納得できなかったんです。 実際、どんなに音源かっこよくてもライブがイマイチってバンドは沢山いるし、じゃあどうするかってなったら実際に気になるバンドを自分の足を使って観に行って、そこで何かを感じたら実際に声かけさせていただくっていうアナログな方法でツアバンを招聘するかたちになりました。
–素晴らしい考えですね。 何度も伊那にツアーで来るバンドも結構見受けられるのですが、そういうアナログな活動が人を動かしているのでしょうか?
まあ、地道な活動がそういう結果を出してくれてる部分もあるとは思うんですけど、何よりも伊那グラムハウスに来るライブ好きのお客さんのおかげだと思ってます。 グラムに来るお客さんて本当に純粋に音楽を楽しんでくれて、バンドに対しても純粋な評価をしてくれてる気がするので、実際バンドが良いライブをすればお客さんのレスポンスが良くなって、ツアバンも「また来たい」って思ってくれてると思うし。
–なるほど。 グラムのお客さんは音楽に対する愛が深いのかもしれないですね。
スケールの大きい話になっちゃいますけど、今の日本の音楽については何か思うことはありますか?
うーん、でかいなあ(笑)
そうですね、言わずもがな今って楽器を持ってないミュージシャンの露出が多いので、そこは寂しいですね。大きいロックフェスも今は沢山あるし、バンドの数って別にそんなに減ってもないと思うので、もっとバンドをメディアで取り上げて欲しいとは思います。深夜の30分番組とかでもいいから。
あとは日本の音楽ってサイクルが本当に早いと思います。 パッと出ても続けていけないアーティストが多すぎる気がしますね、まあ理由は色々あるんでしょうけど。
–確かにそうですね。 時代やムーブメントとかも関係あるとは思うけど、実際バンドっていっぱいいますしね。 時代の事と言えば、今って音楽家が世間に発信する方法って沢山あるし、必然的にバンドにも多様性が必要になってきてると思うんですが、バンドもフレキシブルな活動をしたほうがいいと思いますか?
もともと「インディーズ」ってそういうことの走りだったんだと思うんですよね、今はブランドみたいになってるけど。 例えばどうやったら音楽で食っていけるか?とか、ちゃんとマネジメントをする活動みたいなのって、今に限らずずっとあったとは思います。 情報も溢れかえってるし、それこそいろんな方法で発信しやすくなった分、埋もれやすくもなってると思うので、個々でしっかりやんないと「音楽で飯食ってこう!」とかいう考えには直結していかないですよね。 やれることはどんどんやった方がいいと思いますね。
–なるほど。 【発信しやすくなった分、埋もれやすくもなってる】ってのは目からウロコですね、本当にそう思います。
じゃあ、今もし良太郎君がガチでバンドでプロを目指すとしたら、何をしますか?
さっきの話に付随しますけど、そうやって手段が増えた分いろんな面でサボっちゃダメだと思いますね。 例えばSNSだけじゃなくてフライヤーもちゃんと作って手配りしたりとか、そういうアナログで地道な活動もやっぱサボっちゃダメだし、それこそSNSで告知して終わりとかじゃなくて、じゃあどの時間に告知するかとか、何回くらいするかとか、もうありとあらゆる面でサボらないようにすること、それしかないかもしれません。そういう活動って即効性とかもないんですけど、やっぱり地道にやるしかないかなあ、と。
–本当にその通りだと思います。やりだしたとしても続けていくのって難しいところでもありますよね、直ぐに結果に出るわけじゃないし。
話は変わりますが、都会のライブハウスって打ち上げがないこと割と多いんですけど、グラムハウスは打ち上げはどうしてますか?
基本ハコウチ(終演後そのままライブハウスで打ち上げをすること)ですね。やらないってことはほぼ無いです。 結局バンド同士がゆっくり話せるタイミングってそこくらいしか無いし、やっぱり重要かなあとは思ってます。
日常について聞いてみた
–じゃあ日常についてお伺いします。 あんまり考えずに話していただきたいので、一問一答的な流れでいってみます。
睡眠時間てどれくらいですか??
大体5~6時間です。
–趣味はなんですか??
旅行だけど時間も金も余裕ないんで全然行けてないです(笑)。
–好きな食べ物は??
カレーです。
(影山:「めっちゃ似合うな、、、」)
–尊敬する人はいますか?
うーん、特にいません。
–座右の銘は??
「大抵の事はなんとかなる」かな。
–今の夢はありますか??
うーん、えーとちょっと長くなっちゃうんですけど、僕が80歳くらいになった時に20歳くらいのバンドマンに「それ、古いんじゃない?」って言いたいです(笑)
–??(笑) というと、生涯現役でありたいという考え方でいいですか??(笑)
そうですね、いつまでも現役の目線でいたいです。フレッシュさを忘れないように。
–なるほど。 じゃあ最後の質問。
今現在ご自身で活動されているThe Banana Plantations(ザ バナナ プランテーションズ)は今後どういう活動をしていきたいですか??
向上心のある活動ですかね。 歳を取って「いや、俺たち趣味でやってるし、こんなもんでしょ、、、。」みたいなバンドたまーにいるんですけど、そういう前向きじゃない活動にはしたくないですね。 「今よりも良くなりたい!」とずっと思い続けていきたいです。
最後に聞いてみた
–最後に二つ質問させてください。
ライブハウスという仕事を、他の人に勧められますか?
勧められるように、稼ぎます(笑)
次の世代の為にも、「ああ、こういうことをしてもやっていけるんだな」って思ってもらえるように、身を以て体現していきたいですね。
まあ、僕のことは置いておいても、音楽に興味があるならやってみてもいいと思う。 やっぱり内側に入ってみないとわからないことも沢山あるし、特にバンドでどうにかなりたいとか思うならいろんな面で世界が広がると思うから。 はじめにも言いましたけど、やっぱ好きなら続くし。
–じゃあ、バンドマン、特にこの辺で活動しているバンドマン達に伝えたいことを最後にお聞きします。
そうですね、、。
続けてみるってことですかね。 分かっているつもりでも分かってない事ってやっぱり沢山あるし、今あるものが全てだと思わずに、続けること。 その先にしか見えないものも必ずあるから。
あとは、いつまでもフレッシュさを忘れないで欲しいですね。 そういうことに気を配れていれば自ずと進化し続けていけると思うので。
ゴリラの編集後記
故郷を離れて活動してきた手前、2011年に帰郷したものの、なかなか地元のライブハウスに入りこむ勇気もなく時間だけが過ぎてしまった。
良太朗くんとはゆっくり話したいとずっと思っていたし、きっと音楽をこよなく愛する御仁なのだろうと踏んでいた僕の考えは間違ってはいなかった。
話し方や考え方の一つ一つに弛まぬ音楽愛を感じたし、地方で運営するライブハウスという立場でも冷静に次のカードを考え続けているクレバーな方だった。
地方のライブハウスは、都会に比べたらやはり絶対的にバンド人口も少ないわけで、その中でいかに音楽という文化を地元で根付かせていくかということを考えるだけでも頭を悩ませる種は多いはずだ。
そんな中、確かな音楽観と信念を武器に新天地にて新しいカードを切った氏には、きっと彼の音楽愛を辿ってくる若人が必ず現れるだろうなと純粋に確信した。
実は小生、二十歳過ぎた頃にバンドで大成しようと「こんな田舎でやっててもいいメンバーにも巡り会えないだろうし都会に出よう」と決めて郷里を離れた経緯がある。
今思えば、若さしか感じ得ない尻の青い情熱だったなあと忸怩する反面、例えば氏のような存在が周りにいたとしたら、また違ったのかもしれないとも思う。
小生は、今まで外へ外へと活動をしてきて、地元の音楽シーンのことなど正直どうでもいいと思っていた。やる奴がしっかりやってりゃ勝手についてくる奴が出てくるだろうと、そんな考え方だった。
しかし最近は違う。 僕が初デビューを果たしたライブハウスが今もこうして色んな想いを携えながら現存しているというだけで感慨深いものがあるし、こんないい歳をした音楽人だがグラムハウスに少しでも小生が培ってきた何かをフィードバックできるような活動ができたら、あの時のくだらない思想で郷里を捨てた自分と、小馬鹿にしてしまった伊那の音楽シーンに申し訳が立つような気がするのだ。
氏と対談しながらそんなことを考えていたら、目頭が熱くなってしまったことは胸の奥にそっとしまって、この地元のライブハウスの為に微力ながらできることを続けていこう。そう決めた。
南信の音楽好きの若人よ、グラムハウスにはとんでもない味方がいるぞ。
そして、彼らの行く末はきっと土臭く、そして何よりも美しいはずだ。
伊那GRAM HOUSE
〒396-0025
長野県伊那市荒井3447-3
TEL:0265-73-6923
mail:info@gramhouse.net
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