目次
プロローグ
桜の蕾が綻び始めた親水公園の川原に、一つの家族があった。
時折聞こえる高らかな子供の声は、これでもかと言わんばかりに青々と広がる空に向かって響いている。
「親父にそっくりだな」
春の麗らかな日差しの中で無邪気に笑う遥を一瞥しながら、裕二はふと口にした。
自分でも怖くなるくらい優しい光景の中で、愛する息子を眺めているだけで今までの悔恨の全てが浄化されるような気さえした。
「本当にね」
裕二に寄り添って微笑みを浮かべていた穂奈美も、穏やかな眼差しで遥を見つめながら頷いた。
「そろそろお義父さんとお義母さんにも挨拶に行かないと」
穂奈美はそう口にすると、公園の遊具で一人戯れる遥に近づいていった。
家族というものは、きっと多くの場合この世に生まれ落ちた瞬間から当然のように用意されていて、あまりにも当たり前すぎてその存在の価値が蒙昧してしまうことさえある。
学生の頃、悪態ばかりついていた裕二に向かって、
「お前も家族を持てば分かる」
と、父である茂が言い放ったことがあった。
当時はその言葉の意味など全く考えもしなかったが、今ならなんとなくその言葉の意味が分かる気がした。
手を振りながら駆け寄ってきた遥の頭をグシャグシャと撫でたあと、三人は車の停めてある駐車場に向かって踵を返した。
【次章】