「お金がないので、出来るだけ安くお願いします」
そうやって、レコーディングやMV撮影の際に言うバンドマンは多い。
バンドに限らず、制作の依頼だったりも割と常套句のように耳にする。
かくいう僕も、自分の活動に対する「投資」の価値を見出せない頃は、同じように「なるべく安く他人に頼む」というのは当然だった。
今の時代なら、そういう方が逆に自然なのかもしれないけど。
昔仲の良かったバンドが東京に居て、彼らはまだインディのレーベルに入る前にMVをリリースした。
界隈だとすごく有名なディレクターに頼んだそうで、最終的にかかった費用はざっと諭吉4~50人ほどだったと聞いた。
むしろコネを使ったので、それでも安いくらいだと。
当然、ミュージックビデオのクオリティはメジャーのそれと比べても全く遜色もなく、素人でも驚くくらい随所に巧が光っていた。
今日日、MVは結構誰でも簡単に安値で作れてしまう時代に、
「なんでレーベルにも入ってないのに、そんなにお金かけてミュージックビデオを制作したのか?」
と、率直に尋ねたところ、
「動画コンテンツはこれから聴き手に対して一番伝わりやすい手段だし、そこにお金かけるのは当然。そして、業界の人達も、自分たちの活動にどれだけ本気なのか?投資しているか?をちゃんと見ている。」
と教えてくれた。
霹靂だった。
冷静に考えれば至極当然で、自分の活動に対して惜しみなくお金も時間も投資して初めて、周りにも本気度が伝わる。
逆に考えれば、なるべくお金がかからないようにと活動していれば、それは周りから見ても「そんなもんなんだな」と思われかねない。
いや、経費をなるべくかけないのはもちろん大事だ。
勿論趣味でやってたり、限られた予算や時間の中でより有益な活動をするためなら、話は別だが。
あと、なるべく自分で完結したいというのもまた別の次元の話。
ただ、安くていい物もあれば、しっかりとお金をかけるべきものだってあると思っている。
衣服も同じで、普段着は別にユニクロとかの安いものでいいけど、結婚式には何万円もするスーツに身を包む。
人はやっぱり見た目も大事だ。
投資するべきところへは投資するべきだと、そのバンドマンと話して痛感した。
そしてそれは恐らくビジネスライクで見ても同じ。
ああ、この人は、このバンドは、この店は、この仕事は、本気なのだな、と、投資をみると自ずと分かってしまうことが多い。
どこに投資するか、どれくらい投資するかはケースバイケースだとは思うけど、高みを目指すなら無視はできない部分である。
言われる側も分かっている
例えばバンドがMV撮影をしたり、レコーディングをすることになって、自分が制作側だとして、ディレクターなどとの初めての打ち合わせの時に、
「お金が無いので、なるべく安くお願いします」
と言われたらどうか。
その人たちは別にボランティアでやってるわけでもなく、きちんと「仕事」として向き合っている。
家族もいるだろう、制作クオリティを上げたり維持するために常に進化する機材の導入も必須。それらのメンテナンスだってあるし、会社の存続も関わってくる。
「なるべく安く、、、」と聞いて、呆れるくらいならまだしも、そもそも仕事として成立しなければいけない。
バンドマンがみんなお金がないのは分かっている。
あわよくばボッタクってやろうだなんて、ごく一部の悪い人たちを除いて、思ってはいないだろう。(そう信じてる)
じゃあどうするか、だ。
お金をかけないことよりも、どうやったらかかってくる経費を手に入れられるか?を考えないといけない。
本気で何かを目指すなら、投資もやっぱり必要だ。
お金をいただいて作曲をするようになって、機材や気持ちの面でもしっかり投資していかないといけないと、と改めて感じている。
それは、お金をいただいてモノづくりをすることの対価であり、そこに妥協してしまっては相手に失礼だと思うので。
バンド活動も同じだ。
みんなお金が無いのは分かっている。
僕も裕福とは言えない生活状況の中で、音楽に命を削って、家族を養って、常に向上することを胸に日々もがいている。
僕を求めてくれる人達に、妥協せず全力で還元しようと思っている。
多分、みんな一緒。
ちなみに僕の場合は、直接制作料金を下げるのではなくて、
「その正規の制作費をみんなでどうやったら工面できるかを考えましょう!」
と提案している。
ファウンディングするのか、協賛を集めるのか、パトロンを探すのか、グッズ等の物販でペイするのか、もっと違う集め方をするのか、僕からも提案する。一緒に考える。
果してそういう取り組みが正しいかはわからないけど、なるべくお互いが納得してよい結果に繋がるように、可能な限り善処したいと思っている。
自分のやってることに投資すること。
それがまた新しい価値を見出すこと。
そんな感じでお互いがwin winなら、色々がもっと楽しくなると思っている。