病室に入ると、彼女は既に死んでいた。
最後の言葉が何だったのか、今も思い出せない。
どんな声だったのかも覚えていない。
他人の全てを知るのは宇宙のすべてを知ることよりも難い
と、どこかで見たけど、
結局彼女の本当の心は分からないままだ。
当たり前にあるような一日は、
当たり前のように壊れてしまったし、
世界はそれを厭わないまま、
何事もなかったかのように日々は過ぎた。
神が人間に与えたもうた一番の試練は、
忘れることだと思っている。
どれだけ信じあった友人も、
その友情を忘れる。
どれだけ愛し合った恋人も、
その愛を忘れる。
喜びも悲しみも、全部夢だったかのように。
それでいいのかもしれないし、それじゃ駄目なのかもしれない。
ただ一つ言えることは、
今僕は生きていて、
忘れない努力は出来るということ。